UCOM光 レジデンスの導入を見送りました

少し前の話ですが、自宅マンションで「UCOM光 レジデンス」の導入の案内がありました。
自分なりに調査および検討した結果、今回は導入を見送ることにしたのですが、その理由を備忘録として残しておきます。

なお、掲載する情報についてはなるべく一次情報等の根拠を載せるようにはしていますが、私は光回線ISPについての専門家ではないので、一部誤っている説明や解釈が含まれている可能性があります。
住居や契約形態等によって異なる部分もあると思いますので、参考程度ということでお願いします。

現状の説明

サービス案内の内容を確認する前に、自宅のインターネット環境について軽く説明しておきます。

  • 住居形態: マンション
  • 配線方式: VDSL
  • 光コラボ業者: enひかり
  • 契約サービス名: enひかり マンションタイプ
  • 契約オプション: 固定IP、v6プラス

建物が古いので、MDF室から各部屋までは未だにメタルケーブル(電話線)で配線されており、VDSL方式が採用されています。
つまり、通信速度の最大理論値は上り下りともに100Mbpsです。
なお、v6プラスでIPv4アドレスのポート開放を可能にするために、固定IPオプションを追加で契約しています。

サービス案内の内容

ある日、「マンションに無料インターネットを導入しますので、希望する方は手続きをして切り替えてください」という内容の資料がポストに投函されていました。
サービス内容は以下の通りでした。

  • サービス名: UCOM光 レジデンス
  • サービスタイプ: マンション全戸一括シンプルタイプ
  • 回線種別: G.fast
  • 棟内設備仕様: 1Gbps
  • 提供IP数: 5個 (プライベートIP)

元々各住人がNTTおよびISP(もしくは光コラボ事業者)と個別契約をしていた部分が一括契約になり、インターネット接続料金が無料になるようです。

切り替えを希望しない場合、これまで通り個人で契約している回線を利用できるとのことです。*1

なお、「UCOM光 レジデンス」と個人で契約している回線の併用はできないとのことです。
技術的に不可能なのか、それともサービス規約的に不可能なのかはわかりません。
※2023/10/11追記
コメントにて、同時利用不可能な場合と可能な場合について教えていただきました。ありがとうございます。

サービス内容の詳細調査

契約を切り替えた場合のメリットとデメリットを理解するため、サービス内容の詳細を調査しました。

UCOM光 レジデンス

そもそも「UCOM光 レジデンス」とは何かを理解していなかったので、公式サイトを確認しました。

UCOM光 レジデンス | 株式会社つなぐネットコミュニケーションズ

マンション全戸一括サービスNo.1の理由 | 株式会社つなぐネットコミュニケーションズ

アルテリア・ネットワークス保有するISPバックボーンを利用した、マンション全戸一括型インターネットサービスです。
「専有型回線」や「アルテリアグループ一貫体制によるサポート」が売りのサービスのようです。

マンション全戸一括シンプルタイプ

先程専有型回線が売りと記載しましたが、「マンション全戸一括シンプルタイプ」だと、接続方式は共有型となるようです。
フレッツ光のように収容局から光ファイバーを分岐して引き込むイメージかと思いますが、詳細はわかりません。

G.fast

G.fastの概要

現状の説明で記載した通り、自宅のマンションではVDSL方式が採用されています。
VDSL方式では通信速度の最大理論値が上り下りともに100Mbpsとなりますが、G.fastという規格を利用することで最大1Gbpsで通信が可能になります。*2

G.fastは既存のメタルケーブルをそのまま利用できるため、配管等の問題で光配線方式への変更が困難な場合に採用されるようです。
MDF室のVDSL親機をG.fast対応機器に置き換え、合わせて宅内のVDSLモデムをG.fast専用アダプタ(専用モデム)に置き換えることで、利用できるようになります。

専用モデムの型番は、ITUS社製のF104Wのようです。*3
※契約の時期や内容によっては異なる可能性があります。
以下ITUS社のホームページにF104WVの情報はありますが、F104Wの情報は見つけられませんでした。
ITUS

G.fastの通信速度について

先程「G.fastは最大1Gbpsで通信が可能」と書きましたが、実際に利用する際に1Gbps近くまでの通信速度は期待できないと思われます。
その理由として、KDDIが公開している以下情報が参考になります。
導入事例 (G.Fast) | ソリューション | 法人・ビジネス向け | KDDI株式会社

実際にはVDSLとの干渉があるためその帯域を避ける必要があるが、「それでも上り下りを合わせて800Mbpsが可能です。古河ケーブルテレビでは下り8:上り2の割合で帯域を振り分けており、従来のVDSLよりはるかに高速で、充分戦っていけます」

こちらはあくまでも古河ケーブルテレビでの事例ではありますが、上り下り合わせて最大800Mbpsになり、それを下り8/上り2の割合で振り分けるとのことです。
つまりこの場合、下り640Mbps/上り160Mbpsが通信速度の理論値ということになります。

一般的なインターネット利用では上りの通信量よりも下りの通信量の方が多くなることが多いため、この帯域振り分けの割合は理にかなっていると思います。
逆に言うと、上りの通信速度を気にする人は注意すべきかもしれません。

実際に以下「auひかり マンション タイプG」のサイトを確認すると、下り664Mbps/上り166Mbpsとあります。
つまりこの場合、G.fastの帯域が上下合わせて最大830Mbpsで、それを下り8/上り2の割合で割り振っているようです。
マンション タイプG | auひかり マンション:インターネット回線 | au

G契約  下り664Mbps/上り166Mbps

ちなみにUCOM光では、以下のような記載がされています。
賃貸集合住宅向けに全戸一括インターネット接続サービス「UCOM光 レジデンス シンプルタイプ」の販売開始 | アルテリア・ネットワークス株式会社

UCOM光 レジデンス シンプルタイプ(G.fast)
電話回線を利用し最大1Gbps(上下合わせて)の通信速度を実現する仕様です※4※5。


※4 通信速度数値はベストエフォート(規格上の最高速度)であり、お客様が利用できる通信速度を保証するものではありません。回線の混雑状況やお客様の通信環境により、実際の通信速度は変化します。
※5 「G.fast」は電話回線を利用した高速通信技術です。従来のVDSL方式より広帯域のバンド幅を通信に用いることで最大1Gbps(上下合わせて)の通信速度を実現しています。なお、G.fast規格での最大通信速度は建物の規模やメタルペア線の品質・配線距離などで異なる場合があります。

KDDI(au)のように具体的な数字は提示せず、「最大1Gbpsを実現する仕様です」という微妙な書き方をしています。
具体的な帯域の振り分け割合等を調べたのですが、情報を見つけられませんでした。

提供IP数: 5個 (プライベートIP)

グローバルIPアドレスではなく、プライベートIPアドレスのみが提供されます。
提供IP数5個がどの部分を指しているのかについての記載は見つけられませんでしたが、おそらくルータ(G.fast専用アダプタ)のLAN側(ルータ配下)に5個割り当てられるということだと思います。
というのも、公式のFAQに以下記載があるからです。

複数台の機器でのインターネット接続は可能か知りたい。

複数台の機器でのインターネット接続は可能か知りたい。


建物のご契約により、接続数の上限がございます。
上限を超えるご利用につきましては、お客様にてルータをご用意いただければ
ご対応が可能です。
(中略)
※ルータ配下で機器をご利用いただく際は、接続数の上限数は影響いたしません。

おそらく各部屋ごとにNWが/29で払い出され、そのうち1つがルータに設定されているのではないでしょうか。
↓こんなイメージ?(想像で描いたので、違うかもしれません)

/29だとホストアドレス数は6なので、接続可能台数は6-1=5ですね。
WAN側のプライベートIPアドレスは、DHCPで取得するのではないでしょうか。
ルータおよびアクセスポイント機能が組み込まれた専用モデムが提供されるとのことなので、このあたりの設定は事前に入っていると思います。
6台以上接続したい場合は、別途ルータを接続してNAPTしてくださいということでしょう。

接続可能台数が5台というのは今の時代にしては少なすぎて非常に不親切に感じるのですが、どうもそういう設計のようです。
おそらくですが集合住宅で部屋数が非常に多くなることを想定すると、/29くらいで設計しておかないと全体のサブネット数が足りなくなったり、NAPTする際のTCP/UDPのポート数が不足したりするということなのではないかと思います。
今回の接続方式が共有型であることも理由のひとつなのかもしれません。

なお、IPv6は以下FAQの通り提供されないようです。
IPv6は使えるか知りたい。

IPv6は使えるか知りたい。


弊社では提供しておりません。

一方で、以下プレスリリースの通り、将来的にIPv6を標準サービスとして提供することを目指しているようです。
マンション全戸一括型インターネット接続サービスにおけるIPv6対応サービスの開発を決定~標準サービスとしての提供を目指して~ | 株式会社つなぐネットコミュニケーションズ

メリットとデメリット

前述で整理した内容を踏まえ、既存の契約から切り替えた場合の私にとってのメリットとデメリットを整理しました。

メリット

通信速度が向上する

G.fastの利用により、通信速度の理論値がおそらく下り664Mbps/上り166Mbps程度になります。*4
光配線方式と比較すると見劣りしますが、VDSLと比較すると特に下りの通信速度は大きく改善されそうです。

インターネット接続料金が無料になる

現状月額4,500円ほどかかっている接続料金が無料になります。
モデムにルータとAP機能が内蔵されているため、自前でルータを用意しなくてもインターネットを利用できます。
ただそこまで大きな金額ではないですし、サービス内容が微妙なので、無料になったところで…という感じです。
むしろ多少お金がかかってもいいから、まともな光配線方式を導入してほしかったです。

デメリット

IPv6アドレスが利用できない

前述の通り、将来的にはIPv6が利用できるようになる可能性はありますが、記事作成時点(2023/10/03)では提供されていません。
私は拠点間VPNIPv6を利用していますし、Google等のサービスでもIPv6の普及は進んでいるので、これが使えなくなるのは困ります。
IPv4を使えばいいじゃないか」という意見がありそうですが、グローバルIPアドレスが割り振られないので、IPsecが利用できません。OpenVPN等を利用すればできなくはないですが、そのために構成変更はしたくないです。

グローバルIPアドレスが利用できない

IPv4グローバルIPアドレスが割り振られないので、ポート開放ができません。
常にIPv4でポート開放をしているわけではないのですが、仕事柄たまに検証等で利用したくなる場面があります。
例えばAWSとIPsecVPNを張ったり、WebサーバやVPNサーバを外部に公開したりといった感じです。*5

メタルケーブル(G.fast)の制約を受ける

G.fastの利用により通信速度が向上するとはいえ、実際には前述の通り下り664Mbps/上り166Mbps程度が限界と思われ、特に上りが弱いです。
メタルケーブルは伝送距離が長くなるほど信号が減衰しますし、ノイズにも弱いです。
以下の通りNTTも光配線方式への切り替えを勧めていますので、下手に古いメタルケーブルを延命するのではなく、光配線方式へ変更してほしかったです。
フレッツ 光ネクストにおけるVDSL方式/LAN配線方式から光配線方式へのタイプ変更工事費割引の実施について | お知らせ・報道発表 | 企業情報 | NTT東日本

結論

デメリットがメリットを上回るため、私は「UCOM光 レジデンス」へは切り替えずに現状の契約を継続することにしました。
もし多少お金を払ってIPv6IPv4グローバルIPがオプションとして利用できたとすれば、まだ検討の余地があったかもしれません。

私は「UCOM光 レジデンス」の全てのサービス内容を把握しているわけではありませんし、今回調べた内容が全ての契約形態に当てはまるわけではないとは思いますが、このサービスは比較的ライトユーザー向けだと感じました。
一人暮らしでIP端末の台数が少なく、とりあえず通常のブラウジングができればいい、という方にとっては良いサービスだと思います。
何より無料ですし。

あとがき

実は以前からマンション設備に関するアンケートが何度か実施されており、「インターネット接続の最大速度が100Mbpsなので、1Gbpsにしてほしい」と何度か回答していました。
※本当は「VDSL方式を廃止して光配線方式にしてほしい」と書きたかったのですが、難しい用語を使うと伝わらないと思い、わかりやすい言葉で書いたつもりでした。

そのため、最初案内が届いたときは「ついに光配線方式へ変更か?」と一瞬期待してしまいましたが、「無料インターネット導入」や「プライベートIP」という文字を目にした時点でなんとなく察してしまいました。
そしておおよそ察した通りの調査結果になってしまい、がっかりです。

単にメタルケーブルを光ファイバーに敷設し直してくれれば幸せになれたのですが、まあ色々事情があるのでしょうね。
今どきVDSL(メタルケーブル)を使っているのは時代遅れなので、いいかげん光配線方式の住居に引っ越さないとだめですね。

参考サイト

調査にあたり参考にさせていただいたWebサイトを以下に記載します。
マンション光回線の配線方式のお話 - notokenの覚書
メタル線を利用したネットワーク

*1:当然ですが、これまで通りの契約を継続する場合、インターネット接続料金は個人負担のままです。

*2:G.fastの標準化動向 https://journal.ntt.co.jp/backnumber2/1605/files/jn201605053.pdf

*3:接続ガイドに型番の記載があります。 https://support.ucom.ne.jp/downloads/manual/setsuzoku_duide_itusgfast.pdf

*4:あくまでG.fastの帯域がauひかりと同じ割合で割り振られると仮定した場合ですが。

*5:当然IPv6でもポート開放はできますが、接続先等の制約でIPv4を使いたい場面は多々あります。